2023年12月01日
企画・開発
未来への希望となる製品
その開発ポイントや今後の展望とは(後編)
医療的ケア児を救う機器開発のプロジェクトのはじまりをお届けした前編。後編はその製品のポイントから今後の展望を伺った。(後編)
PROFILE
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KAZUNORI SAKURAI
櫻井 和徳
61歳
NICE公益財団法人 長野県産業振興機構
信州医療機器事業化開発センター
医工連携プロジェクトマネージャー
(信州大学 学術研究・産学官連携推進機構 特任教授) -
AKIHIRO YOSHIZAWA
吉沢 彰洋
55歳
北アルプス広域消防本部 救急救命士(指導救命士)
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HIROSHI OGAWA
小川 宏
65歳
ファミリー・サービス・エイコー株式会社
専務取締役
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インタビュアー
今回の介護用品の開発ポイントを教えてください。
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吉沢さん
当初考えたのは、できるだけ価格をおさえたいので、ボディフィックス・スプリント(https://e-nsy.jp/pages/268/)の形をなるべく変えたくないと思いました。ポイントとして1点目はやはり安全に移動するための持ち手が必要であること、そして2点目が強靭なつくり、3点目は中に乗せたお子さんが落ちないような工夫です。この3点が大きいと思います。
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櫻井さん
やはり一番は、お子さんの体に力が加わらないようにする、という点ですね。力が加わっただけでも骨が折れてしまうので、体に合う形状でソフトに持ち上げられるように工夫しました。ですが、お母さんにテストをしていただいたところ、最初は持ち上げただけでもふにゃっと形が崩れてしてしまい、全然駄目でした。
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吉沢さん
それぞれのお子さんの体に合った、一番いいものをその場で作っていくような感じですね。
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櫻井さん
医療的ケア児のいるご家庭に伺うことはもちろん、こども病院の在宅療養担当の看護師の方にお話をお聴きして、汎用的なものを作ろうと検討していたのですが、いつまでも終息しないんですよね。在宅療養の医療的ケア児のお子さんに共通しているのは、まず骨が弱い、人工呼吸器を使っていることが多い、サチュレーションモニターをつけていることが多いというところで、その3点についてはしっかり子供さんを守れるようなベースの製品になっていると思います。あとは個別の要望に対してオプションとして対応していくようになります。
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櫻井さん
医療的ケア児のご家庭は口コミのスピードがすごいんです。先日医療的ケア児の支援団体の代表者の方と県知事の懇談会があったのですが、約3団体の皆さんが、すでにこの商品のことを知っていました。7月のプレスリリースからだと思いますが、NHKや民放に紹介していただいたので、それを見た方も多かったようです。
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インタビュアー
開発に苦労した点、完成された商品の感想はいかがでしょうか。
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櫻井さん
1つの事が解決できると、ここもこうした方がという要望が出てきます。人工呼吸器の管を止められた方がいいとか、サチュレーションモニターを入れるところがあったほうが良いなど。何度もブラッシュアップを重ね、最終的には素晴らしいものになっていると思います。
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吉沢さん
唯一、いいものになると価格が高くなってしまうのでは、と心配していましたが、安心しました。様々な要望を技術的にどんどん解決してくださり、私からすると、医療的ケア児を助けられる可能性がどんどん上がっていくことが本当に嬉しかったです。
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櫻井さん
私たちだけだと加減が分からないので、吉沢さんに相談し適確なアドバイスをいただきながら即決できるという点が助かりました。1年間という短い期間でも、完成度の高いものを作ることができました。
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吉沢さん
避難すら諦めていたお母さんが、今では、「これで助かる見込みが出てきました」と、生き延びようとする前向きな発言をするようになりました。そんなふうに言っていただけたことはこれは、ものすごく大きな変化だと思います。また、今後は、機材一式をストレッチャーに乗せて救急車で運べるようになるので、管轄の消防署に練習をしていただこうと計画しています。
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インタビュアー
今後の目標や展望はありますか。
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吉沢さん
医療的ケアを必要としているお子さんが、普通のユニバーサルのサービスを受けられるような社会にしていきたいです。そのための一つの道具になると思います。これがあれば119番で病院に連れていってもらえます。今は本当に大変なんです。バギーがないと行けない、それ専用の車がないと行けない、専用の駐車場がないと行けない、運転は家族じゃないと行けない、他のお子さんを世話する人がいないと行けない・・・本当に様々な制約がある中で暮らしています。手が届かない所の負担を減らしてあげたい、それを可能にする一つでもあると思います。これまでの救急業務の中で、目の前の一人を救うことを考えてきましたが、この器材の開発に関われたことで、予め方策を講じれば多くの人を危険に晒さずに済むと、新たなやりがいを感じました。今後、徐々に広まって、世の中が少しでも良くなればと思います。
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櫻井さん
日本は遅れています。もっと医療的ケア児の支援をしなければいけないと思います。やっと2021年に、各県に医療的ケア児支援センターの設置を義務付ける法律が施行されました。
各県にできてきてはいますが、中身はまだまだこれからです。医療的ケア児の状態は常々変化するし、対応していくのが大変なのは確かです。今は業者が発泡スチロールで手作りしていますが、それでは形が変えられないから作り直さないといけない。刻々と変わるお子さんの状態に対応していけるよう、今後ニーズに合わせてバリエーションを増やしていけたらと思います。
また、医療的ケア児のみなさんは体温調節がうまくできなくて汗かきなことが多いので、リベルタのフリーズテックの冷感ミストとかもジョイントできたらいいと思っています。カバーやマットレスなどに冷感素材を組み合わせると非常に良いんじゃないかと思いますね。開発期間が1年間というのは非常に短いと思います。ものづくりの会社にいた時もそんなことはほとんどありません、早くて2、3年はかかります。エイコーさんの決断が早いことはもちろん、医療関係者のヒアリングから、こういうものを作ろうか、というところまで、ほぼ即決で「やりましょう!」と決めてくれました。普通の会社だったら、企画書を作って企画会議にかけて、ヒアリングし直したりとなると、それだけで半年、一年はかかると思います。
エイコーさんはすぐにものづくりを開始してくれました。そういう所が一番大きいです。対応が早くて本当に良かったと思います。
最後にお伝えしたいことはありますか。
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小川専務
現在のものが5回目のサンプル。仮説で物はつくるけど、実際には思うようにいかず、現場で試しながら、それぞれの患者さんごとに個別に対応しなければいけません。共通でいける部分もありますが、全部対応するのは無理があるので、どこで線引きするかというところはありました。
販売先としては、現在は販売会社への委託販売とエイコーでの通信販売など、最初は長野県内からスタートして、今後は全国展開していけたらと思っています。販売価格としては5万円くらいの予定です。 介護用具の補助制度があるので、それをご家庭で使っていただければと思いますが、自治体によって制度が違うのでご確認いただければと思います。生産は注文から1ヶ月あれば可能です。すでに完成されたボディーフィックス・スプリントの成功事例が活きていると思います。まだまだ改善できることはたくさんあります。永遠に開発は終わらないと思います。